− 衛星開発手順と人工衛星データ利用拡大 −
ふくいオープンイノベーション推進機構では、県内ものづくり企業に対し、宇宙産業でのニーズなど最先端の情報を提供することにより、宇宙産業への参入を支援していくこととし、「ふくい宇宙産業創出研究会」を設立し、産業化に向けた情報提供・意見交換を行っています。この一環で、平成28年12月13日(火)に、日本大学大学院理工学研究科 航空宇宙工専攻 宮崎教授と富士通株式会社 亀山室長をお招きし、「衛星開発手順や技術的検証」と「人工衛星データの利用拡大」をテーマに、研究会WG(その5)を開催し、約40名のご参加をいただきましたので、その内容を報告します。
![]() ディレクター挨拶 |
![]() 宮崎先生ご講演 |
![]() 宮崎先生 |
![]() 会場の様子 |
(1)概論
宮崎教授より、設計から運用までの衛星開発手順について、実際に衛星を開発する場合の具体的手順とその時々に必要となる技術的作業、ミッション達成の為の仕様決定方法、パラメータなどの要求値の決定方法、そしてビジネス展開の為の製造業企業への期待などが講演されました。
![]() 会場からの質疑応答1 |
![]() 会場からの質疑応答2 |
(2)これまでに開発した衛星等
最初に自己紹介を兼ねて、これまでの衛星開発企業への技術提供・共同開発や、開発されたSEED�兇�SPROUTなどの現在も運用されている衛星、展開構造物などが紹介されました。次に、現在の取り組みとして、ビジネスとして売れる衛星NEXUSや、7cm立方のHEPTA-Satが紹介されました。併せて、品質とシステムメーカへの対応ができ質の良い衛星を作れる超小型衛星の関係者の増加が望まれています。
(3)衛星開発手順と技術検証
(3-1)ミッション定義からの全体システム
衛星の開発するための手順および技術検証として、まず衛星の全体システムの定義が説明されました。具体的に何をするのかのミッション定義と、その実現に必要な機能とそれらを可能とするシステム構成とし、汎用かつ共通性を持ったバス機能部と目的に特有となるミッション機能部への分類が述べられました。超小型衛星で特定のランドマークを撮影するミッションが例示され、やること(ミッションの定義)、頻度や分解能により要求仕様が変わること、これらを決定するパラメータの洗い出し、定量的表現によるミッションの定義、必要とされる個々の機能、機能を実現する方法としての開発事項、そして、標準的なシステム構成例までが判り易く示されました。人間であれば当たり前のように実施することでも、人工衛星に自律的にステップバイステップで実施させるためには、「当たり前のことを時々見直してみて、見落としがないかよくよく考える事が重要」と述べられています。
(3-2)開発の流れと検証方法
設計・製造・検証の基本的な考え方としてVモデルを用いた設計と検証が示され、検証が非常に重要であると説明されました。開発の流れとしては、ミッション定義から概念設計、基本設計、詳細設計、打上げまでのフェーズ・プロジェクト計画が示され、BBM(ブレッドボードモデル)からEM(エンジニアリングモデル)、FM(フライトモデル)までの製造事例が示されています。
(3-3)制約と前提条件
システム定義・概念設計の前には制約としての前提条件があることがあり、これらは打ち上げロケット選定により、機械的あるいは電気的インタフェース条件として大きく変化することが伝えられています。事例としてコールドローンチの場合の電源系を用い、最小構成と電気的インタフェース対応構成の違いを確認しました。さらに、制約の環境条件要素として、振動・衝撃、真空、放射線、熱入力・熱放射・アルベド、紫外線などが示され、前提条件を徹底的に検討しておくべきと伝えられました。概念設計の流れとして13段階の手順が示され、サブシステム設計前の機能要求の整理が重要であり、概念設計の良し悪しは後々まで影響すると説明されました。
(3-3)PDR/CDR
BBM開発と基本設計としてPDR(Preliminary Design Review)が説明されました。BBMの試験結果により、基本設計の結果の審査が重要であり、福井で取り組んでいる製造実習衛星(通称段ボール衛星)も、これをキチンと実施すべきことが指摘されています。また、EM開発と詳細設計としてCDR(Critical Design Review)が説明されました。実際の人工衛星開発においては非常に重要な段階であり、組み上げて運用までの模擬を徹底的に行うEnd-to-End試験がとても重要と述べられました。ここでミスを見つけ出しておき、本番やフライトモデルでの失敗回避に繋がるとのことでした。
(3-4)PQRと検証試験
開発の最後にFM開発とPQR(Post Qualification Test Review)が説明されました。「死なない衛星」のために、バグの事前見つけ出しの徹底と、万が一にバグが見つかった場合には、軌道上ではその状態に落ち込ませないような運用方法などの手段が講義されています。
設計値(仕様値)の確認方法として、試験、解析(計算)、検査の手法があり、実物試験での確認が推奨されました。試験方法として、下表の10種の試験が説明されました。
| 名称 | 概要等 |
| 放射線試験 | 粒子、電子、1日の総量等 |
| 真空試験 | 真空圧力定義と動作確認 |
| 温度試験 | 性能の温度依存性を調べる |
| 熱真空試験 | 真空かつ所定外部温度での動作確認 熱解析とあわせ、衛星の温度分布の調査 |
| 振動試験 | 衝撃、分離機構分離衝撃等 構造と回路 |
| 衝撃試験 | 入力加速度、時刻歴応答、固有振動時の最大加速度などと、基準値のとの関係 |
| 長距離通信試験 | インピータンスマッチング 長距離電波伝搬試験 |
| 各種安全性確認試験 | 指摘適合性、ローンチ状態等による |
| ミッション動作試験 | センサキャリブレーション(電流・電圧値較正) アクチュエータ等動作確認 |
| 長期運用試験 (End to End試験) |
搭載機器動作確認、プログラム確認、バグ取り 初期〜定常運用、最終運用試験(逃げ方の確認) |
(4)ミッション達成の仕様化
ミッション達成の為の仕様決定方法として、機械的インタフェースや電気的インタフェースについて、全体設計側が部品・アッセンブリ供給側に対して要求仕様を提示し、これに供給側が仕様を提案してスペックの調整を進めていくこと、適度なマージンが要求されることなどが説明されました。一度、衛星の設計をしてみての理解が重要との事です。電力解析では運用モードと消費電力量、デバイス消費電力などの関係明確化が指摘されています。ミッション定義やシステム定義の段階で、諸元に応じたコンポーネント(部材・デバイス等)があれば衛星全体の仕様は仮決定され、試験にて仕様が決定されていくこと、仕様の確認は軌道上でも需要で、このデータを取得するための適切なコマンドとテレメトリの準備も必要なこと、これらに関連しフライト実績はきわめて重要視されること等が伝えられています。
(5)製造業企業への期待 〜世界を見据えユーザに寄り添った品質の高い製品の供給〜
衛星やコンポーネントはネットでも売れる時代であり、海外での事例としてサレー大学からスピンアウトしたSSTLでのビジネス事例などが紹介されました。福井県の企業への期待として、世界市場に向けての部材提供と高品質化、衛星システムメーカからの要望への細かな対応、技術障壁を保ちながらの一定量の技術開示などが伝えられています。バスは標準化されたものの入手が希望され、ミッションは自分で宇宙の研究に使いたい事例なども紹介されています。そして、超小型衛星の低価格化による市場の拡大、福井県からの高い品質の部材提供、付加価値の高いデータの提供などを通じて、社会への定着の期待がなされています。
以上の講演を通じ、大変有意義な情報を多々頂きました。ふくい宇宙産業創出研究会では、人工衛星の試作から運用までを想定して実習衛星の試作に取り組んでいますが、宮崎教授から示された設計・検証手法に対し、我々の設定した目的・ミッション・各種前提条件・将来への目標と課題など、全体を通じて見直してみて、研究会で情報共有を図っていこうと思っています。
![]() 亀山シニアマネージャご講演 |
![]() 県民衛星でできること |
亀山シニアマネージャからは、宇宙開発・宇宙利用関連地上システム全般に携わった自己紹介の後、地上システムの概要や運用の仕組みが紹介されました。また、「ほどよし3、4号機」の運用システム全体概要とサブシステムが、軌道力学系と通信周波数割当管理、衛生運用計画系などの事例を元に説明されました。さらに、小型複数衛星のミッション事例が紹介されています。その後、福井県民衛星プロジェクトについて、県民衛星でできること、活用可能性や衛星活用事例と対応するビジネスモデルなどが提案されています。
最後に、超小型衛星の課題として、地上との通信経路確保、サイズに依存する搭載機器の性能機能制約およびその環境下での最適解追求手法、輸送システム制約、デブリ発生、データ処理技術と開発適用課題などが指摘されました。その上で、超小型衛星の今後の展望や可能性として、フォーメーションフライト、衛星間通信とネットワーク、多様なミッション対応、超小型単機能衛星の複合連携(システム機能の分担)などの可能性を述べられました。今後の宇宙開発の期待として、ユーザ起点のビジネスモデルに適したサービス環境や宇宙利用開発のインフラ化と社会還元、そして、人類の夢と現実の両立を狙った宇宙開発の期待として、先端技術と民生利用の両立などが訴求されました。
人工衛星データの利用拡大のキーとしては、人工衛星とそれ以外のインフラでの取得データを合わせ、マーケットを特定することと、エンドユーザに求められている高いニーズの情報をタイムリーに市場に提供することが大事であるという印象を頂きました。
ふくい宇宙産業創出研究会で実習衛星モデル試作に関する取り組みのご説明と、WG1構造(筐体)グループ、WG2電気・通信グループからの進捗報告を行い、宮崎教授と亀山シニアマネージャからご講評を頂きました。福井県内だけではなかなか確認できなかった設計手法について、考え方や質問に対する有用な指摘などをご教示いただけました。
![]() 実習衛星モデル試作の取り組み |
![]() 構造体重量要件を達成する筐体設計 |
![]() 固有振動数分離と将来の熱設計 |
![]() 電気系統と余剰電力の処理法確認等 |
(公財)ふくい産業支援センター
オープンイノベーション推進部 技術経営推進室 松井、山本
福井県工業技術センター
新産業創出研究部 レーザ・電子線G 末定(すえさだ)
〒910-0102 福井市川合鷲塚町61-10
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