生態調査の予備知識 その2

 

「河川魚類の生態と河川形態」

 

 


 

河川魚類の生態と河川形態

 

魚の生活カレンダー

 

生活型

魚種

主な生息域

食性

回遊魚

海と川を行き来する

サケ(サケ科)

肉食性

アユ(キュウリウオ科)

川と海

藻食性

ウナギ(ウナギ科)

肉食性

シマヨシノボリ(ハゼ科)

雑食性

アユカケ(ハゼ科)

肉食性

サクラマス(サケ科)

肉食性

カジカ(小卵型)(カジカ科)

川の下流

肉食性

純淡水魚

一生を川で過ごす

イワナ(サケ科)

川の源流

肉食性

アマゴ(サケ科)

川の上流

肉食性

ヤマメ(サケ科)

川の上流

肉食性

カジカ(大卵型)(カジカ科)

川の上流

肉食性

コイ(コイ科)

川の中〜下流

雑食性

ウグイ(コイ科)

川の中〜下流

雑食性

ギンナブ(コイ科)

川の中〜下流

雑食性

 

回遊魚の一生

 

海と川とを行き来する回遊魚は河川横断構造物の影響を受けやすい。

 

回遊魚はなぜ海と川を行き来できるのか

 海産魚が淡水で、また淡水魚が海で生きられないのは、外界と体内の浸透圧の違いにより、それぞれの環境でえらと腎臓の機能が全く逆に働くためです。
 海産魚は海中では体内の水分を奪われるため、海水を多量に飲みえらでは塩類をこしとって排出し、腎臓で水を吸収して体内の水分を常に補給しています。
 逆に淡水魚は体内に水が多量に入ってくるため、えらから必要な塩類を吸収し腎臓では尿を大量に作って余分な水を排出しています。回遊をする魚は場所に応じて、えらや腎臓の機能をまったく逆転させることができるのです。

a)海産魚(体液濃度<海水)

b)淡水魚(体液濃度>海水)

 


 

河川の形態と魚の生息分布

 

一見無関係にみえる川の流れも実は魚の生活に大きな影響を与えています。

 

 

 

 

早瀬には魚の餌となる水生昆虫が多数生息しています。

このような場所でないと生育できない魚もおおく、河川の豊かな生態系を実現させる重要な形態の一つを言えます。

水ぎわによくみられるヨシは魚の餌となる水生昆虫のすみかとなったり、魚たちの隠れ家の役目を果たします。

河畔林の存在は、水際線を多様な形態にして、鳥や魚のすみかを提供してくれます。

夏が近づくと、平瀬のレキ底ではウグイの産卵行動が見られます。

 

流れのゆるやかな浅い瀬で多くの魚たちの産卵場所となります。

自然な川であれば、淵と交互にあらわれる区間であるが、河川改修などにより川が直線上になると、この早瀬ばかりが続く、川にすむ生き物達にとっては住みにくい川になってしまいます。

魚にとっては、出水時の退避所、または夜の休息所となります。

 

ハゼ科、カジカ科類の産卵

ハゼ科、カジカ科の魚類の雄は左図のように石の下に産卵床を作り、雌を誘い入れて、石の天井に卵を産みつけさせます。多くの魚は産卵後、卵の面倒は見ませんが、ハゼ科、カジカ科魚類の雄は産卵後も卵が孵化するまで、ひれで新鮮な空気を送ったり、卵を外敵から守ったりと、かいがしく世話します。

 


 

遊泳魚と底生魚

 

魚の中にも泳ぎの得意な魚とそうでない魚がいます。

 

遊泳魚の代表 ウグイ

底生魚の代表 カジカ

遊泳魚は泳ぐのに適したいわゆる流線型の体形をしているため、流れに逆らって自由に泳ぐことができます。

底生魚は遊泳魚のように泳ぎまわることはなく、水底にじっとしていて、餌が近づくのを待ちかまえています。

 

血合筋と普通筋

 

魚は血合筋と普通筋と呼ばれる二種類の筋肉をもっており、平常時は酸素の供給があれば疲労することのない血合筋のみを使って泳いでいます。普通筋は酸素がなくても使えますが、使うほどの毒素の乳酸を体内にためてしまうため、攻撃、逃避、急流遡上時以外では使いません。

カツオの体側筋の断面(赤・・・血合筋)

 

遊泳速度について

 

魚の遊泳速度は、一般に以下の公式で導かれます。

 

 突進速度(瞬間的に出せる速度)

=10×体長/秒

血合筋、普通筋を使用 

 巡航速度(長時間続けて出せる速度)

 =2〜4×体長/秒

血合筋のみを使用 

 

(ただし血合筋のほとんどない底生魚にはあてはまりません)

 


 

魚の泳ぐ速さについて

 

魚類

アユ

ニジマス

アマゴ

コイ

ウグイ

オイカワ

ウナギ

体長(cm)

45

59

14.4

1540

一年魚

15.3

15

7.59.5

シラス

715

1530

突進速度
(cm/s)

5070

100
120

178

170
200

240

150

160

100

-

6090

90
150

巡行速度
(cm/s)

510

4060

110

40
100

70
140

70

-

-

40

-

-

 


 

引用文献

 

廣瀬利雄・中村俊六(1991):魚道の設計 山海堂

中村俊六(1995):魚道のはなし 山海堂

松原喜代松・落合明・岩井保(1979):新版魚類学(上) 恒星社厚生閣

水野信彦・御勢久右衛門共著(1993):河川の生態学 築地書館

玉井信行・水野信彦・中村俊六編(1993):河川生態環境工学 東京大学出版会

()リバーフロント整備センター編(1996):フィールド総合図鑑川の生物 山海堂

川那部浩哉・水野信彦編・監修(1989):日本の淡水魚 山と渓谷社

千田稔(1991):自然的河川計画 理工図書

全国内水面漁業協同組合連合会(1987):内水面漁場環境・利用実態調査報告書

 

執 筆
イラスト
写 真

森照代
森照代
竹内一介

 

上記資料は福井県雪対策建設技術研究所発行の環境土木通信Vol4(06.1997)より転載しました。

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