生態調査の予備知識 その3

 

−河川の植物−

 

日野川豊橋からの風景(武生市)

現在も豊かな植生が残っている。

 


 

河川の植物

 

河川には河川特有の植物たちが生育しています。以下によく見られる種類を紹介します。

 

@ 水際で見られる種類

 

ヨシ
(イネ科)

セリ
(
セリ科)

ミゾソバ
(タデ科)

ハッカ
(シソ科)

アシとも呼ばれる。若芽は消炎利尿などの薬作用になり、茎は屋根ふきに使われる。

名の由来は新芽が競うようにたくさん出る様子からという説がある。春の七草。

溝に生えるソバの類という意味。泥質な場所に生育し、大きな群落をつくる。

全体に芳香があり、香料や薬用として栽培される。

 

A 湿地(ワンド)で見られる種類

 

ガマ
(ガマ科)

サンカクイ
(カヤツリグサ科)

ヒシ
(ヒシ科)

マコモ
(イネ科)

花粉は止血や利尿の薬として用いられる。
地下茎はデンプンを含み食用にできる。

茎は三角で50cmから1mになり、先端に卵型の小穂をつける。別名鷺の尻差し。

葉は菱形で、つけねはふくらみ浮袋の役目をする。硬いトゲを持つ実は食用になる。

真菰の名は葉で敷物などを作ったためという。茎は中空で高さ1〜2mになる。

 

B 乾燥した礫地などで見られる種類

 

カワラハハコ
(キク科)

マルバヤハズソウ
(マメ科)

カワラヨモギ
(キク科)

コマツナギ
(マメ科)

中州の礫の多い場所に生育する。洪水に耐えるため地中深くに根をはる。

葉先をつかむと矢筈型にちぎれる。マメ科に属しやせ地に強い。

葉は細かく糸状に裂け、下部は木質となる。礫質な場所に生育する。

草のように見える小低木で、名の由来は馬をつなげるほど茎が丈夫なため。

 

C 土砂が堆積した場所で見られる種類

 

ブタクサ
(キク科)

メドハギ
(マメ科)

ウシハコベ
(ナデシコ科)

メマツヨイグサ
(アカバナ科)

荒れ地にはじめに侵入するが、近年では近縁種のオオブタクサが目立つ。

高さ6090cmになり、よく枝別れし低木状となる。マメ科に属しやせ地に強い。

ハコベによく似るが、本種は全国的に大型で茎が紫色を帯びる。

月見草(オオマツヨイグサ)の仲間。冬のロゼット葉は赤くよく目立つ。

 

D 高水敷部で見られる種類

 

オギ
(イネ科)

アメリカセンダングサ
(キク科)

クズ
(マメ科)

カナムグラ
(クワ科)

ススキとよく似るが、株立ちせず1本ずつ茎をたてて生育し、大きな群落をつくる。

帰化種だが全国的な雑草となっている。頭花は衣服につきやすい。

根は太く大きく、多量のデンプンを含んでおり葛粉がとれる。薬用にもされる。

カナは鉄の意味で茎がハリガネ状に強く生い茂ることによる。つる草。

 

E 河川で見られる樹木

 

ヤナギ類
(ヤナギ科)

ネムノキ
(マメ科)

ヌルデ
(ウルシ科)

オニグルミ
(クルミ科)

河川内では多種のヤナギ類が見られる。昔より護岸樹として利用されている。

高さ610mになる。小葉は夜になると閉じて垂れ下がるが花は夕方開花する。

葉に寄生するヌルデノフシムシの虫えいは五倍子といい染料や薬品に利用する。

高さ25mまで成長する。実は直径3cmで核の中の種子は食用になる。

 

河川における植生分布の基礎知識

 

川の流れに適応した分布

 

上 流 域

中 流 域

下 流 域

 侵食の激しい上流域では、ネコヤナギやツルヨシのように、強い根やしなやかな枝などに対する抵抗性を持つ種類が生育する。

礫や砂が堆積しはじめる中流域では、洪水頻度や堆積物の栄養状態に応じた種類が生育する。特に中州では特徴的な植生分布が見られる。(右図)

 流れが緩やかで土砂の堆積が多いが下流域では、泥質な湿地状の場所にはヨシ、マコミモ、ガマ類など、流水辺にはミゾソバなどタデ科植物がよく見られる。

 

◆ 典型的な中州の植生分布

 

場所によって植生の差がある

 不安定帯

毎年のように洪水の被害を受け、激しいときには植物はほとんど流出して裸地となってしまう。
礫が多く、夏には50℃を越し、貧栄養の土壌のため1年草が芽生えるが定着しにくい。極めて貧弱な植生。

半不安定帯

両方の中間帯で、洪水の破壊作用を受けるが、よくこれに耐えて疎生の群落を作る。カワラハハコ・カワラヨモギなどキク科植物の他、メドハギ・コマツナギ・マルバヤハズソウなどの根粒菌と共生するマメ科植物が多いのも注目される。

安定帯

洪水による破壊を余り受けないか、多少受けても速やかにもとの状態に回復する地帯。ヨモギ・チガヤなど、時には木本植物の群落が見られる場合もある。

河原によってこの3つ植物帯の割合が異なり、中流部では安定帯がないか極めて狭小である。急流河川では植物の定着ができず広大な礫原のみとなり、河川植生の特異性が認められる。

 

河床がヨシで覆われる

 

河川改良により平坦化した河床はヨシに好まれ川全体がヨシ原でおおいつくされている風景が河床に見られるようになった。

 

ツルヨシ

 

【環境に適応するツルヨシ】
ヨシの仲間であるツルヨシは匍匐茎を地表に伸ばして成長するため、流れの激しい礫底の貧栄養な環境でも生育できます。そのため河川改修などにより河床が平坦化すると、堆積地がなくなり他の植物が入り込めないためしばしばツルヨシが繁茂するようになります。

 

ワンドの形態

本来なら中〜下流域ではこのような中州や湾処(ワンド)などの多様な河川形態が見られるはずである。

 

河川植生の4つの機能

 

@ 生態学的機能

多様な動植物の生息空間

A 治水機能

水際の土壌浸食防止

B 浄化機能

水質の浄化

C 景観機能

緑豊かな美しい風景

 

◆ 生活場所の違いによる植生の分類

 

変化に富んだ環境においては、生育する植物の生活型も種類も多様になります。環境が単純になるほど多様性は失われてしまいます。

 

多自然型川づくりにおける植生調査

 

多自然型河川工法での工事例(魚見川:池田町菅生地係)

 

池田町を流れる魚見川では、自然環境に配慮した多自然型河川工法による護岸工事が行われた。その結果、河川形態が多様化し裸地だった場所も年月とともに多様な植生がにおおわれてきた。多様な生物の生息生育環境が実現した。

 

199511月の状況工事完成直後
張出水制・置石により河床形態の多様化(平坦
化防止)をめざした。

 

 

19986月の状況(27ヶ月後)
河床形態が多様化した。瀬と淵、砂州が発生し、さまざまな植生が見られる。

 

施工前、この区間では護岸工事が続いたため、長い間植生の入りにくい単純な環境であった。

施工から3年がたち、ツルヨシ、ミゾソバ、アカソなどの植物が多く見られるようになった。(植生の多様化)

 

植生調査の方法

 

河川にかぎらず、そこに生息する植物を調べるためには専門的な知識が必要である。
植生調査には方形枠(コドラート)を用いた群落組成調査、また断面で出現する植物を確認する植生断面調査などがある。

 

植生調査で用いられる方形枠
(
写真のものは1×1m)

植生調査中

 

調査結果をまとめた群落組成調査表

コドラードNo.

1

2

4

12

13

14

21

25

6

7

ヨモギ

 

 

1

3

 

 

 

2

+

1

ミゾソバ

5

5

 

 

 

 

1

3

 

 

セリ

3

1

 

 

 

 

 

1

 

 

イグサ

1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカセンダグサ

+

 

1

 

 

 

1

25

 

 

ネナシカズラ

 

2

 

+

+

 

 

 

1

 

カナダモ

 

2

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤブマメ

 

 

4

4

3

5

4

4

 

 

ヤブツルアズキ

 

 

4

 

 

 

 

 

 

 

シロツメグサ

 

 

1

2

 

 

 

 

 

 

5:被度がコドラート面積の3/4以上占めているもの
4:被度がコドラート面積の1/23/4を占めているもの
3:被度がコドラート面積の1/41/2を占めているもの
2:個体数がきわめて多いか、または少なくとも被度1/101/4を占めているもの
1:個体数は多いが被度が1/20以下、または被度が1/10以下で個体数が少ない
+:個体数も少なく、被度も少ないもの

 

参考・引用文献

 

奥田重俊・佐々木寧/編:河川環境と水辺植物,19967月,()ソフトサイエンス社

桜井善雄:水辺の環境学,19917月,()新日本出版社

田川日出男:植物の生態,198211月,共立出版()

建設省河川局河川環境課/監修,()リバーフロント整備センター/発行:平成9年度版

河川水辺の国勢調査マニュアル河川版(生物調査編)19974

福井県環境土木研究会:生き物の生息・生育環境に配慮した土木設計,19983

角野康郎/監修:滋賀の理科教材研究委員会/編集,滋賀の水草・図解ハンドバブック,

19896月,叶V学社

()日本自然保護協会/編:川の自然かんさつ,1997

林弥栄/編・解説:日本の樹木,19859月,且Rと渓谷社

林弥栄/編・解説:日本の野草,19839月,且Rと渓谷社

牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑T,19854月,竃k隆館

牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑U,19865月,竃k隆館

牧野富太郎:原色牧野日本植物図鑑V,19867月,竃k隆館

()リバーフロント整備センター/編集:フィールド総合図鑑 川の生物,

19964月,()山海堂

()リバーフロント整備センター/編集:川の生物図典,19964月,()山海堂

 

監修・写真提供:

斎藤寛昭

編 集 協 力:

森 照代

 

上記資料は福井県雪対策建設技術研究所発行の環境土木通信Vol1(05.1999)から転載しました。

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