第3章 スプリンクラー散水による融雪の熱解析と実用化

 

3-1 はじめに

 ノズル散水では、車で攪拌されない限り、水が流れる筋道しか溶けない。そこで、路面全体の均一な散水融雪を目指してスプリンクラーでの融雪を試みた。スプリンクラー融雪については、旧国鉄で実施されている21)が、とりまとめがされていない。そこで、熱解析と実験を行い、従来のノズル散水との比較を行った。

 

3-2 熱解析

 散水による融雪では、雪は落下瞬間に溶けるとすると流水が図-3.1のように道路横断方向に任意のn点から微小区間Δx下流のn+1点に達するまでの熱と水量について次式を得る。

  ρ・Cso・q・Δx ρ・C・V・H + (−Δx

ρ・C・V+1・H+1    3-(1)

・H・Δx・Δx/ρ+1+1              3-(2)

=I・(smC・T+1−Cs・Ts               3-(3)

ここに、ρ:水の密度 :水の比熱 so:落下点での散水温度 :n点からn+1点までの面積当たり散水量(道路センターからのノズル散水では0) :n点での流水温 :n点での流水速度 :n点での流水の水深 :流水が吸収する短波長(日射)放射熱量 :流水が放出する長波長放射熱量 :大気(空気)への顕熱失熱量 Qe:蒸発による失熱量 :舗装への失熱量  :面積当り重量換算降雪強度 :降雪を融解し融解水を流水温にまで昇温させるのに要する熱量 Csm:雪の重量当たり融解熱量 Cs:雪の比熱 Ts:雪の温度 である。

+Qについては、 

         Q+QK(Ta)                         3-(4)

Ta:気温 K:係数 となり、Kについてはノズル散水融雪での実験と解析22)から中村秀臣、今井清保はそれぞれ =14.2+2.8 [J/(K・s・m2)] 、=13.3×(1+0.22U/2)[J/(K・s・m2)] U:風速[m/s] と推定している23)24)。二つの式は風速2m/sまでで7%以内の差に過ぎない。ここでは中村秀臣の式を用いた。

 0・H0はスプリンクラーでは0、道路センターノズル散水方式では散水量となり、式から逐次 +1 が求められる。

               図-3.1 スプリンクラー散水融雪概念図

図-3.2 スプリンクラー散水融雪実験施設と融雪状況(写真-3.1参照)

写真-3.1 スプリンクラー散水融雪実験施設と融雪状況  写真-3.2 スプリンクラーの散水状況

 

 この差分法により、中村秀臣や今井清保の方程式を解いた一般解の方法25)26)では扱えなかったスプリンクラーでの散水融雪の計算が行える。さらに、熱量不足で残雪となった後も、残雪分相当を次の時間帯に繰り越すことで、時間経過をともなった融雪の数値シミュレーションが可能となる。

 

3-3 実験装置と実験方法

 モデル式の検証のため、図-3.2,写真-3.2のスプリンクラー散水融雪施設で実験を行った。スプリンクラーは、低空で水が飛び、その回転速度も低速なものを製作依頼した。隣接するスプリンクラーからの散水のない道路横断線上の図-3.2に示す四ヵ所の舗装表面に2mmのV字切込みを作り、そこに熱電対温度センサーを設置して、流水の温度を計測した。更に、降雪重量・風速・気温を自動計測した。これらの計測は、降雪予報のあった日に散水温度を適当に変えながら散水し続けて行った。

 空中での水温低下は、少量の水が貯まる断熱容器を1m間隔に設置し、貯まった水温を散水しながら計測することで求めた。気温と散水温度を変えて実験を重ね図-3.3を得た。

 なお、使用したスプリンクラーは、任意の2点で反転し、右回転では遠くに多く散水し、左回転では水はねを多くして近くに多く散水するように作られている(写真-3.2)。左右の回転の違いで水球径が違うので、左右を分けて空中水温低下と散水分布を計測した。空中での水温低下が飛距離に比例しないのは、遠くに飛ぶ水の球径が大きいことによると考えられる27)

 なお、スプリンクラーの散水分布は、寒波ごとに孔の迎角を数度変え、その都度散布状態を計測した。図-3.4はその一例である。

 

   図-3.3 空中での水温低下

 

  図-3.4 散水の分布  

 

図-3.5 流水温(X=-2m)

       図-3.6 気象条件   

 

  図-3.7 流水から奪われる熱量内訳

 

              

     表-3.1 流水温の実測と計算の平均値






 
 X=-2mX=-1mX=1mX=2m
散水温度8.98
落下水温度7.46 7.03 6.79 6.65
実測平均水温3.56 2.38 3.67 2.61
計算平均水温3.72 3.04 3.40 2.71
計算-実測水温0.16
 
0.66
 
-0.27
 
0.10
 
 
 
 
 
 
 
 




 

 

3-4 実験結果と考察

 15分ごとに平均化した実測データと式3-(1)、3-(2)、3-(3)と

@降雪重量は全て0℃の氷である

A流水から地盤への熱移動は、各地点での流水の温度差が小さいので全地点同じで、地点X=-2mでの舗装表面下5mmと15mmでの温度差と舗装の熱伝導率の積にほぼ等しい

B流水が0℃に達しない限り雪は時間遅れを伴わず溶ける

C流水が0℃に達した領域では雪は流れず止まり、次の時間帯に残る

D短波長放射熱量は夜間であることから、また長波長放射熱量は雪雲があり無視できる

の仮定で流水温を計算した。図-3.5はX=-2m地点での散水温・落下直後の水温・流水温の実測値と計算値、図-3.6はその折の気象、図-3.7はX=-2m地点で流水が奪われる熱量の内訳である。他の三地点を含めて流水温の実測と計算・落下水温・散水温の平均値を示したのが表-3.1である。散水温の平均値8.98℃に対して、流水温の計算値と実測値との差は0.7℃以内でよく一致している。また空中での熱損失は表-3.1からこの気象条件では散水熱量の1/4〜1/5である。これに比べ大気への熱損失量は降雪時には流水温が低いため小さいことが図-3.7から分る。図-3.5で流水温の計算値は実測値に比べ降雪時に低く、降雪直後に高くなる傾向がある。これは流水が0℃以上であっても雪が流水に溶けるまでに時間を要し上記Bの仮定が崩れることによると考えられる。そのことは、あられの降った場合にはあられが長く残ることで目視観察された。なお、表-3.1では、時間的に平均化するため、その不一致がなくなっている。

 

- 融雪運転記録からのモデル式の検証

 次に、より強い降雪があった1992年2月22日における断続融雪運転での記録から考察する。この日は午前1時から8時までに図-3.8のように8.5mmの雨量換算降雪があり、融雪運転がなされた。融雪は図-3.2に積雪センサー感知部として示す円弧領域が25%以上白い場合に融雪運転となるように第5章で述べる積雪センサーで制御された。また、運転の更新は18分ごとになされた。

 この一連の降雪について、先の数値シミュレーションを今度は1時間ごとに、隣接するスプリンクラーからの散水を重ねて行った。その際地盤への熱移動は無視できるとした。また、その時刻の運転時間に1時間の全降雪があり、運転のない時は路面に変化が生じないとして計算した。最も降雪の強かった1:00〜2:00での運転時間当りの降雪強度は4.1cm/hであった。流水温を計算した結果が図-3.9で、流水温度が0℃以下は残雪とした。この図では、スプリンクラーとスプリンクラーの中間部で、流水温度が高温となっているが、これは両端のスプリンクラーからの落下水温が重なり、落下水量が多いことによる。また、図-3.9に積雪センサー感知部を重ねてみると、薄白くなった部分が25%という融雪運転の稼働限界に近いことから計算が

ほぼ妥当であると推察される。

 次に、朝8:00まで逐次数値シミュレーションし、朝8:00の流水温を図-3.10に図示した。この図と8:00での実際の路面上の残雪の状況を記録した図-3.2とを比べると路面露出率も残雪の形も良く一致している。

 以上によりスプリンクラー散水による融雪は先のモデル式により、数値シミュレーションできることが分った。

 

図-3.8 積雪センサー制御でのスプリンクラー融雪と降雪の例   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         図-3.9 流水温

         図-3.10 流水温

 

写真-3.3 ノズル散水での路面状況  

写真-3.4 スプリンクラーによる散水状況

   図-3.11 ノズル散水融雪実験施設と路面状況     

 

 

図-3.12 ノズル散水融雪シミュレーション

 

  図-3.13 ノズル散水融雪シミュレーション(熱量一定)

 

3-6 ノズル散水との比較

 この1992年2月22日にはスプリンクラーと同じ散水温度15℃で全く同じ時間帯だけ図-3.11写真-3.3)に示すノズル方式の施設で散水融雪がなされていた。水量は、路面当たりでスプリンクラーより22%少なかった。この時の状態を同じように3-(1)から3-(4)の式でシミュレートしたのが図-3.12である。実際の路面状況は図-3.11に記載のとおりで、計算での路面露出率98%に比べ著しく低い56%であった。このようにノズル散水で実際が計算に比べ溶けないのは、二つの理由からであろう。一つは、道路センターで溶けた部分が路側に向かう途中で消えていることから計算を上まわる熱損失があること。その熱損失は、路面が運転休止中に冷え、その上スプリンクラーと違って流水温が高いので路面への熱損失が無視できないほど大きいことによると考えられる。もう一つは、図-3.11の右上のように路側まで溶けている部分もあることから水が計算と違って路面を均一に流れないことである。この二点から、ノズル散水での融雪能力の見積りが実際と合わないと考えられる。

 なお、中村秀臣のノズル散水融雪の実験28)は、連続散水の実験条件でかつ水が完全に均一に流れるとして結果を整理し直しているため、また、今井清保の実験29)はドーム膜での融雪実験で下面への熱損失が無視できたために、実験値と一致していると考えられる。

 ここで、路面当たり水量を同じにしてのスプリンクラーでのシミュレーションを行うと路面露出率は66%となる。このスプリンクラーでのシミュレーションは比較的実際に近いことから、ノズル散水に比べ10%路面露出率が良くなると推定される。

 更に、ノズルでは流水温が0℃の区域は全く溶けないが、スプリンクラーでは落下する水の熱で流水温は0℃以下でもかなり溶ける計算になる。実際に残雪はノズルでは全く溶けず写真-3.3写真-5.3のような雪こぶに、スプリンクラーでは残雪部がやや溶けてシャーベット状態になっていることが観測される。

 ノズル散水では、熱量を同じにした15℃ 3.33cm3/(us)、7.5℃ 6.67cm3/(us)、3.75℃ 13.3cm3/(us)の三種類の散水を地盤への熱損失を無視できるとして計算すると図-3.13のように、3.75℃の方が15℃に比べ35%路面が多く露出する。これは、水量が多くて流水温度が低いほど流下中の大気への無駄な熱損失が少なくなることによる。このことは計算では無視した舗装への熱損失についても同様であるから、この点でも低温水の方が路面露出率は大きくなる。しかし、スプリンクラー散水では、ノズル散水ほどには低温水が有利にはならない。それは、流下中の水温が低いため大気や舗装への熱損失の絶対量が少ないことと、水量の増加は空中での比表面積の減に必ずしもならず空中での熱損失の減にならないことによる。

 以上熱的に雪を溶かすという解析を行ってきたが、水量が増えると、雪が溶けなくても流水で流される流雪現象が生じるとの考えがある30)。このことについては、水量が少なかったためか本実験で観測されず熱的解析のみになっており、今後の課題となった。

 

3-7 実用化と課題

 1991年1月からこのスプリンクラーによる散水を、福井県庁前で設置し(写真-3.4)維持管理を行ってきた。その結果、この現場では、スプリンクラーをゆっくりと回転させるようにしたことと水量がやや少なかったことから設置台数の約半数が1年で回転しなくなってしまった。しかし、ノズル径は、従来の固定式に較べ散水領域が広いことからスプリクラーでは大きくでき、目づまりは生じなかった。

 今後の対応として、少ない水量でも安定して回転するスプリンクラーの開発、あるいは、散水区域を半分ずつ交互に散水することで、稼働時の水量を2倍にすることなどが挙げられる。